HAMLET' S MILL の翻訳(『THE KEY』に関連して)#527 |
プラトン哲学では、太古の時代はそのまま残った; それは拡張とは違った「全体的にほかのもの」、パルメニデス69 が彼の「啓示」の中で既に理解していたことやデモクリトス70 が冷たく理論化したこと、とは全体的に両立しえないもの、と固く理解されていた。しかし太古の時代というのは宇宙 (theuniverse)、宇宙のように循環的な明確に限定された時間のことである。それが定義の本質である、だからそれが、進歩を続けてゆくのではなく永遠に回帰すると信じられていた古代ギリシャローマ時代の間ずっと続くのである。そんな考えの世界では、不明確さや無関連さをもたらすのは、自然にそうなったとしても、空間であった。究極的に、プラトンにおいては、空間は「存在しないもの」の性質と同一視された、この考えは、3次元で物事を考え、ベルグソンの言ったように、空間に点在する直線を引いて現実を切り離す我々にとっては非常に不思議に思われるのだが、プラトンにとっては単純かつ自然な結論であったに違いない。彼は現実とは、あるいは、むしろ「存在するもの」は、と言った方が良いけれども、とりわけ『時間』の言葉で定義されるという考えを受け継いでいたのである。混乱、多重性、順序に対する抵抗、プラトンが、心を常に妨害する『Unruly制御出来ない』や『Irregular 異常な』と呼んだものをもたらすのは空間であった。始まりの時に、空間が創造者デミウルゴスの心を妨害さえしたのである、というのは、それが彼にカオスの素、一種の全く異質の、手に負えない、未編成の、何のリズムもない体を提供したからである。デミウルゴスですらそれを形あるものに、彼の力の及ぶ範囲で、強制させることに取り組まねばならないのである。
69《紀元前 5 世紀ごろのイタリア生まれのギリシャの哲学者; エレア学派 (Eleatic school) の祖》研究社新英和大辞典第6版
70 古代ギリシアの唯物論哲学者。自然においては空間内における原子の結合・分離の運動があるだけで、色や味などの感覚的性質は主観的現象にすぎないとし、この原子論を認識作用や社会生活の説明・評価にまで適用する体系を樹立した。著作は断片だけ残存。(前 460 頃~前 370 頃) 広辞苑第六版