HAMLET' S MILL の翻訳(『THE KEY』に関連して)#519 |
殺戮の終わったトロイの最後の夜から、生き残った神話の中にあるのは、僅かの生存者達が見知らぬ海岸に向かって逃亡した話である。そこで彼らが神話の基になる英雄達になる順番となるのである、西部の大都市によって闘わされるが。これは神話が自らを扱う仕方であり、復讐の神メネシスは最後にはローマ帝国に悪影響を与えることになると感じられる。ホメロスの、叙事詩は感情をいれてはならない、という精神が古代人の心を古典界の目的に全面的に向かわすものになった。恨みや憎しみは消されているが、ローマ自らが、永久のものになったと、空想に耽った時にローマ滅亡の幻視を見たことに対するウェルギリウスの心底悲しみに打ちひしがれたような祈願:『お願いでございます、神様、御慈悲を賜り下さいませ。トロイから発した偽りを私どもが十分に償わなかったのでございましょうか ? Iam satis luimus Laomedonteae periuria Troiae・・・ 』、これ以上に感銘深いものは他にはないという具合に。しかし終わることのない詩歌群や大詩歌群のリズム、それは神話の想像力の生きたディアレクティケー38 を創り上げているが、その中には完全な償いはない。アレクサンダーと共に世界を作り直した征服や滅亡は伝説上のウルク王に帰せられる如何なる功績よりも重要であることは確かである; しかしウルク王の別世界のような煌めきはマケドニア人に響き渡って、伝説が彼をもう一人のギルガメッシュのパターンに仕上げたのである、いまでも世界の端から端を、それを超えてまで、発見と全ての土地、海、さらに空、の征服に心を傾注しており、空しく不死の命を求めていると。確立した神話を創り上げる能力は歴史上のエピソードを創作した: 彼はその役割に合わす必要があって二本の角の生えた半神、Dhul-Karnein に変身した、東部からの破壊がやって来る道に真鍮性の壁を立てた、ゴグとマゴグを滅ぼした、後のローマ帝国の栄光も模倣さえ出来なかったという寓話。というのは、その種の『時』は必ず無窮の形態の中に移ってしまうようになるものだからである。
38 dialectic: ソクラテスの問答法, イデア探究の方法としてのプラトンの弁証法など。研究社新英和大辞典第6版